2015年8月12日水曜日

バイポーラ型トランジスタによる終段コレクタAM変調方式によるAM変調信号の生成原理/AM変調理論の見直し

バイポーラ型トランジスタによる終段コレクタAM変調方式によるAM変調信号の生成原理
                                 Noboru , Ji1NZL Aug.12, 2015

バイポーラ型トランジスタによる終段コレクタAM変調方式によるAM変調信号が生成される原理と過程を、ブロックダイアグラム(図1)と、計算式により説明(証明)する。

図1 終段コレクタAM変調方式によるAM変調回路

1. バイポーラ型トランジスタによる終段コレクタAM変調器

終段コレクタAM変調器は、AM信号を生成する手段として知られている。
図1に示すように、終段コレクタAM変調器は、バイポーラ型トランジスタによる高周波終段アンプを1個の乗算器(ミキサー)として動作させることで構成することができる。

2. 計算式によるAM変調信号の生成過程と生成原理

音声信号は、マイクロフォン等により入力する。マイクロフォンが発生する信号電圧は、低周波数帯(20[Hz]〜20[KHz])に帯状に分布しているが、ここでは計算を易しくするために、周波数f0[Hz]の単一の周波数スペクトルとして、コサイン波低周波信号電圧

V3 = Va*cos(ω0*t) … 式(1)
(ここで角周波数 ω0は、ω0=2*π*f0 と定義する。)
が、低周波増幅アンプ A2 で増幅されると仮定する。

式(1)による音声入力電圧信号 Vin は、図1中、コレクタ端子の電源電圧 U0 と加算して乗算器動作させる終段トランジスタのコレクタへ入力する。

直流信電圧U0は、Vinのサイン波電圧を、直流電圧分 U0[V] だけ底上げするので、加算器への出力電圧 Vinは、

Vin = Va*cos(ω0*t)+U0 … 式(2)

を得る。

さて、図1の局部発信器の発生する信号電圧 V1は、サイン波なので、

V1=Vc*sin(ω1*t) …式(3)
(ここで角周波数ω1は、ω1=2*π*f1 と定義する。)

を得る。


次に、乗算器の出力信号電圧Voutを求める。Voutは、Vin(式(2)),V1(式(3))を乗算すれば良いので、

Vout = Vin*V1
   = (Va*cos(ω0*t)+U0) * Vc*sin(ω1*t)
   = U0*Vc*sin(ω1*t) + Va*Vc*cos(ω0*t)*sin(ω1*t)
   = U0*Vc*sin(ω1*t) + Va*Vc*(1/2)*( 2*cos(ω0*t)*sin(ω1*t) )
ここで、三角関数の積和公式から、
   = U0*Vc*sin(ω1*t) + Va*Vc*(1/2)*( sin(ω0*t+ω1*t)*sin(ω1*t-ω0*t) )
   = U0*Vc*sin(ω1*t) + Va*Vc*(1/2)*( sin((ω1+ω0)*t)+ sin((ω1-ω0)*t) )
   = U0*Vc*sin(ω1*t) + Va*Vc*(1/2)*sin((ω1+ω0)*t)+ Va*Vc*(1/2)*sin((ω1-ω0)*t)
     …式(4)

を得る。

式(4)を見ると、本AM変調器器の信号電圧Voutは、次の3つの周波数成分信号で構成されていることがわかる。

(1)局部発振器の周波数f1[Hz]と同一周波数成分のキャリア信号電圧 = U0*Vc*sin(ω1*t)
(2)USB(Upper Side Band)の周波数成分信号電圧 = (1/2)*Va*Vc*sin((ω1+ω0)*t)
(3)LSB(Lower Side Band)の周波数成分信号電圧 = (1/2)*Va*Vc*sin((ω1-ω0)*t)

一方、AM変調波Voutの変調度 m は、キャリア成分(1)の最大振幅電圧 = U0*Vc と、変調波であるUSB成分(2),LSB成分(3)の最大振幅電圧を加算した最大振幅電圧 = (1/2)*Va*Vc + (1/2)*Va*Vc = Va*Vc の比で表現して、

m = (Va*Vc) / (U0*Vc) = Va/U0 …式(5)
0≦m≦1.0

と表現できる。( m=1.0が変調度100%)

このようにして、本AM変調器からは、AM信号が生成される。

求めた式(4)による終段コレクタ変調回路の理論式は、低電力AM変調の計算式とも一致している。

QED

3. AM変調信号生成例

例えば音声信号としてマイクロフォン等から、周波数 f0=200Hを入力し、低周波電力アンプにより、最大振幅電圧 Va=12V のコサイン波を入力し、DC電圧U0=12V、局部発振周波数 f1=1MHz、最大振幅電圧 Vc=100mVを用いると、次の3つのサイン波電圧信号が生成される。

(1)キャリア信号電圧:
   周波数=1MHz 最大振幅電圧=U0*Vc=12V*100mV=1.2V
(2)USB(Upper Side Band)の周波数成分信号電圧:
   周波数=1,000,200 Hz 最大振幅電圧=Va*Vc/2=12V*100mV/2=0.6V
(3)LSB(Lower Side Band)の周波数成分信号電圧:
   周波数=999,800 Hz 最大振幅電圧=Va*Vc/2=12V*100mV/2=0.6V

一般の応用では、音声信号や音楽信号は、20Hz〜20KHzの可聴周波数領域に存在する全ての低周波信号が、AM信号として帯状に分布して電波として生成され得るが、通信機製品では、6KHz,AM放送用に5KHz〜9KHzの帯域の低周波を音声信号として利用されている。

4.課題

(1)ここの計算では、高周波終段トランジスタ電力アンプが、入力電圧をリニア増幅できることを仮定しているが、実際のトランジスタ動作では、高い出力電力になるほどリニア増幅が困難になり、増幅歪みを発生させやすい。

計算から導かれた結果として、高周波終段トランジスタ電力アンプが、入力電圧をリニア増幅できる必須の条件として、適切なバイアス電圧をトランジスタベース電圧に与え、出力電力が、電源電圧に比例して増加すること、また適正な(安定した)負荷インピーダンスを得るようにトランジスタ負荷回路を構成することになる。
(トランジスタ負荷回路にLC並列共振回路を利用すると共振周波数で極大のインピーダンスとなるため、増幅利得も極大になり異常増幅動作を起こしやすい。このため、実装上のノウハウとして、コイルLのセンタータップ点から電源電圧を与えることで負荷インピーダンスを下げる方法が使われてきているが、この方法は負荷インピーダンスがインダクタンス成分を含み周波数で変化するので、安定した負荷回路を構成するための本質的解決にはなっていないと考えられる。広帯域トランジスタアンプに見られるような高周波で抵抗成分が主流のインピーダンスになるフェライトコアのようなRFC利用(例えばFB225)が安定した高周波電力増幅にはるかに優れている実験結果が得られた。)

このため、高周波終段トランジスタ電力アンプには、A級、AB級増幅方式を使用することが必須となり、必然的にC級増幅方式の使用はできないという予想結果が導かれる。

(ただしC級増幅でも、交流と直流電圧が加算された小さいベース電圧で、コレクタ電圧の上昇に対し、コレクタ電流が増加する動作特性範囲部分に限定すると、リニア増幅に近い動作が得られる可能性があり、この場合、非常に小さな電力出力という条件で、AM変調が深くかかる可能性がある。しかし、ベース振幅電圧が少し大きくなるだけで、コレクタ電流の増加はすぐに飽和し、AM変調は正常にかからなくなることも予想される。※1)


(2)この計算では、変調用の入力される低周波信号はコサイン波と仮定し、局部発振周波数はサイン波を仮定しているが、これらの信号は、互いに独立な位相成分が存在する。従って、乗算器ではこれら乗算処理により、位相差が加算された位相歪みが発生することが予想される。

(3)AM放送、FM放送をラジオで受信すると、AMラジオの音質はFMラジオに大きく劣る。しかし、このAM変調の計算式上は歪みが現れていない。

このAM変調方式の音質がなぜ悪いのか、その原因を突き止めると、音質の良いAM送受信機が実現できる可能性がある。公知例では同期検波方式が知られている。(もし伝播経路上で電波の振幅が常に変動を受けている場合は、その振幅変動が直ちに音声復調の変化として現れると予想される。※2)

(4)乗算器の直線性の重要性が、電気電子業界、その専門書籍、インターネット上の記事等で理解されていないまま設計された回路や、回路図、説明文章に誤った記述が、現在でも大変多く見られる。

このトランジスタによる終段コレクタ変調回路の終段トランジスタアンプは、乗算器として動作させるためにはできるだけ良好なリニア増幅特性が必須であるが、AM変調の終段アンプにC級アンプが使えると書かれた文献すら今だに存在しているので、そうした記事や話は、たとえプロの設計した回路や専門家の記事でも、検討と設計をやり直す必要がある困難な現実が現在でもある。

前述の ”3. AM変調信号生成例” で述べたように、電源電圧U0=12Vの場合は、最大100%の変調度を 得るためオーディオパワーアンプには、12V±12Vの広い電圧振幅(0〜24V:電源電圧12Vにサイン波振幅電圧±12Vが加わる場合もあり得る。)を歪みなく実現しなければならない。(※3)
しかし、現実のバイポーラトランジスタではこのようなリニア増幅性能を出すことは極めて難しく、RF出力電力が大きくなるほどその実現が困難になる。

電源電圧が一定でなく、±12Vの広い電圧範囲(相対電圧範囲 24Vにもなる。)トランジスタアンプの動作点が動的に大きく移動せざるを得ないので、歪みが発生しやすい必然的結果が本計算からも理論的に導かれた。
 特にC級増幅アンプを用いれば、歪みは最も酷い状態になることが本計算からも予測できる。

また、昔から現在までずっと言われている終段トランジスタ前段に軽く変調をかけることで、マイナス変調を避けられる。”と説明されてきており、ナショナルのRJX-601にも採用されていたが、その方式の考え方は妖しい可能性が、ここの計算でも裏付けられたことになる。

真空管ではプレート終段変調がうまくかかるが、トランジスタには、終段コレクタ変調がかかりにくい性質があると昔から現在までずっと言われており、書籍等の文献に繰り返し書かれているが、”本当の原因”は、バイポーラトランジスタが理想的乗算器としての動作ができず、リニア増幅が非常に難しい性質にあったと言える。

また、ナショナルのRJX-601を出力1Wから3Wに大きくすると、マイナス変調と呼ばれる出力電圧が変調時に下がる実験結果での不具合原因の存在を、この計算結果が裏付けている。なお幸いにも、プロのAM放送局の送信機は、このような問題を犯していない。

こうした近代までの書籍等に書かれた設計情報を信じると正常なAM変調が実現できないままの状態に陥る。私はあまりにも長い間、この問題の本当の電気的回路動作原因を突き止められなかった。今回、自分で独自に計算した結果、初めてその原因わかったという経緯を経た。ただし私の記事も誤字入力、改行ミスなど編集ミス、論理ミスがあり得るので気づいた方はコメントして欲しい。

注意:(Oct.11, 2015 追記)

※1:C級増幅(ベースバイアス電圧=0V)でもコレクタ電圧が0Vからある一定の電圧までの狭い電圧領域で、コレクタ電圧が増加するトランジスタの動作範囲が存在する。しかしながらC級増幅では、ベース電圧(または電流)上昇に伴いすぐにコレクタ電流の増加が飽和してしまう。この結果、コレクタ電流が飽和した状態では、いくらコレクタ電圧の振幅を上げても、コレクタ電流は飽和したまま変化できない状態になる。

※2 FM変調では電波の強さの振幅変動があっても、周波数変化または位相変化を復調情報として利用するので、原理的に伝播経路上の信号強度の変化があっても、復調音声に歪みの変動は現れない。

※3 この部分は、もう少し検討を要す。コレクタ電流がほぼ直線動作として近似できる範囲の振幅条件では、ベースから入力される振幅電圧を一定の小さい範囲に抑えることで、100%近い深いAM変調がかかるかもしれない。

2016/10/10
図1改訂 わかりやすくするため加算回路(Adder)を追記
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